年をとると免疫力が落ちるのはなぜか?

 免疫機能が、年をとると低下することは広く知られています。皆様も、若い頃は風邪を引いても比較的すぐに回復することが多かったのに、年齢を重ねると回復が遅くなったり、体調を崩しやすくなったりすることで、「免疫機能の低下」を実感されたことがあるかと思います。

 では、なぜ年をとると、免疫機能が低下するのでしょうか?その背景には、加齢によって私たちの体内で起こる変化が関係しています。免疫機能が年齢と共にどう変わるのか、その影響でどのようなことが起きるのかを理解することは、より良い対策を考えるために重要です。

 最近の研究では、加齢に伴う免疫機能の低下が、さまざまな分子メカニズムによって引き起こされていることが明らかになってきました。これらのメカニズムは、私たちの体がどのようにして病気と闘うかに深く関わっています。実際、免疫の老化は、感染症や慢性疾患、さらにはがんのリスクを高める要因となります。

 今回は、「Immune Diseases Associated with Aging: Molecular Mechanisms and Treatment Strategies」という最近の研究論文をもとに、加齢による免疫機能低下の背後にある体内で起こる変化について探ってみましょう。この話題は少し難しいかもしれませんが、私たちの健康に直結する非常に興味深いテーマです。わかりやすく説明しますので、ぜひ最後までお付き合いください。

加齢による免疫低下
4つのしくみ

免疫機能の低下には、大きく分けて次の4つの変化が関係しています。①免疫老化、②テロメア短縮、③SASP、④細胞間の情報伝達の変化。聞きなれない言葉がでてきましたが、ご安心ください。順番にわかりやく解説します。

①免疫老化

年齢を重ねると、免疫細胞も老化します。この現象は「免疫老化」と呼ばれます。NK細胞、マクロファージ、好中球、T細胞、B細胞など、多くの免疫細胞が老化の影響を受けます。ここでは、T細胞を例にあげて説明します。

T細胞は、機能や成熟段階によって種類が分類されています。老化の影響を受ける、ナイーブT細胞とメモリーT細胞について説明します。

ナイーブT細胞の減少
ナイーブT細胞は、まだ病原体等に出会ったことのないT細胞です。ナイーブT細胞は病原体に対して高い反応能力を持っていますが、その数は加齢とともに減少します。その結果、新しいウイルスや細菌に対する初期反応が鈍くなり、感染が重症化するようになります。

メモリーT細胞の機能低下
過去の感染やワクチン接種によって得られた記憶を持つメモリーT細胞も、加齢によりその働きが衰えるので、再感染に対する防御力が低下します。

②テロメア短縮

テロメアとは、染色体の末端にある保護構造で、細胞が分裂するたびに短くなります。これが限界に達すると、細胞は分裂を停止し、老化または細胞死に至ります。

免疫細胞のテロメア短縮
免疫細胞も例外ではなく、加齢に伴いテロメアが短くなります。これにより、免疫細胞の分裂能力が低下し、新しい免疫細胞が供給されにくくなります。特に、T細胞のテロメア短縮は、免疫反応を弱めることに直接つながります。

③SASP(細胞老化に伴う分泌現象)

老化した細胞は、自身の老化を周囲の細胞に伝えるために、炎症性の物質を分泌します。これをSASP(細胞老化に伴う分泌現象)と呼びます。細胞老化を起こした細胞から分泌される物質は、がんをはじめとするさまざまな加齢性疾患の発症や病態の悪化に関与することが明らかになりつつあります。

慢性的な炎症の誘発
SASPにより分泌される物質は、周囲の細胞に炎症反応を引き起こし、慢性的な炎症を促進します。特に、インターロイキン-6(IL-6)や腫瘍壊死因子α(TNF-α)などの炎症性タンパク質の増加は、免疫機能に悪影響を与えます。

④細胞間の情報伝達の変化

免疫細胞の活動は、色々な種類の免疫細胞たちが情報を受け渡すことによって成り立っています。

情報伝達の変化
加齢により、免疫細胞の活性が低下し、この情報伝達を正しく調節できなくなることで、免疫機能が低下します。また、炎症反応を調節する情報伝達が乱れることで、炎症性タンパク質が増加し、慢性的な炎症を引き起こします。

まとめ

 加齢によって、①免疫老化、②テロメア短縮、③SASP、④情報伝達の変化が起こることが、免疫機能に悪影響を及ぼすことがわかりました。さらに、その結果、感染症に対する抵抗力を下げ、発がんや病態の悪化につながることもわかりました。

 一方で、この論文では、免疫機能の老化を抑制できることも指摘されています。それは、老化が十分な栄養や薬を服用することで抑制できるのと同様に、免疫機能の老化も抑制することができ、自然免疫系の活性化を高めることで、より長い「健康寿命」が達成できるということです。

 免疫機能の老化抑制については、次回ご説明いたします。

最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。
私たち研究員は、皆様の健康を叶えるため、情報を発信しています。
暑い日が続きますが、体調には十分お気を付けください。どうかお体を大切に。
イマジン・グローバル・ケア研究員より

皆様の健康を叶えるため、日々研究に励んでいます。

researchers
イマジン・グローバル・ケア研究員(江木、垣尾)

引用

Kim ME, Lee JS. Immune Diseases Associated with Aging: Molecular Mechanisms and Treatment Strategies. Int. J. Mol. Sci. 2023, 25;24(21):15584.
エッセンシャル免疫学 第3版, ピーター・パーラム, 2016, メディカル・サイエンス・インターナショナル.